免許をアップデートしてきた

運転免許の期限が一月を切り、このままじゃまずい、と少しばかりの焦りもでてきたので免許を更新しに行くことにした。

朝の早いうちから免許センターに行ったのにもかかわらず、センター内には多くの人がいて、大混雑とは言えないものの、どの窓口にも数人の列ができている。後でセンターの人に聞いた話なのだが毎日初回更新者講習だけで1200もの人間がここを訪れるらしい。

とりあえず、目の前の列に並んで受付を済ませた僕は、視力を測るためまた列に並んだ。

「右、上、下」「OKです。」

10秒で済んだ。これで本当に視力が解るのか疑問だったがさっさと済まして帰りたかったので、とりあえずお礼を言いその場を後にした。何故お礼を言ったのか?今更ながらに疑問に思えてしょうがないがその時の僕は次に進むことで頭が一杯だった。

新しい免許には今流行りのICが埋め込まれるらしく、パスワードを決めとく必要があるらしい、パスワードはキャッシュカードとは違う番号にしろと赤文字でしつこく書いてあったが天の邪鬼な僕は迷わず同じ番号を入力した。

人に見られる心配より番号を忘れる可能性のほうが高く思えるのだから僕にしては当たり前の事をしたつもりだが、他の多くの人はそうでなかったらしい、皆頭を抱えながら悩んでいる、皆が悩んでいるのを横目に僕は次の窓口に向かった。

次の窓口では今までの免許に穴を開けられた、この時点でもう後には引けないことを悟る。正直二時間にもわたる初回更新者講習はめんどくさく思えるものがあり、帰ってしまおうかとも思ったのだが免許書に穴を開けられてしまってはここから逃げることは出来ない。後二時間ここに軟禁されるのかと思うと少し鬱になった。

鬱の気分のまま次の写真を撮るコーナーに並んだ、今の僕は鬱状態だから酷い顔してるんだろうな。なんて中臭い事を考えながら並んでいたが、列は中々先に進まない。どうしたもんかと先頭を覗いてみると一人の男性、中年とも言えないし、青年とも言えない微妙な年齢の男の人が写真を撮る直前で髪の毛や顔のチェックを始めたのが原因らしい、TSUTAYAカードの更新時ぐらいしかその顔写真を使うときはないのに彼はなんでそこまで気にするのか?もしかすると警察に見せる時イケメンだと罪が軽くなるという特殊なルールでも存在するのだろうか?

皆のイライラが爆発する前に彼が写真を撮り終わったのは幸運と言う他ないだろう。僕の目の前に並んでいる少し怖めのおっさん等は彼を親の敵のような眼で見つめていた。おっさんそんな顔で免許写真とるのはやめといた方がいいと思うぞ。

イケメンだと罪が軽くなることはないと思うが、正直そんな顔写真の免許を見せられたら警察官への心証は最悪だろう。彼が早く冷静さを取り戻す事を、そして顔写真を気にしまくってた人はおっさんから無事に逃げれる事を僕は祈った。

なんだかんだでようやく写真が撮り終わり、ついに初回更新者講習を受ける時が来た。拷問に近い2時間が始まるのかと心構えを固めていたのだが、次の講習が始まるまで40分近い時間がある。待合所には空いてる椅子はない、かといって何処かを見て回る元気もない、そんな僕は窓からボーっと空を見ている事にした。待合所近くでずっと空を見ている僕に不気味さを感じ取ったのか、気付いたら周りの人影が無くなっていた。

人影が無くなった原因は講習受付が始まったからだった。僕が不気味だったからではない。講習開始の20分前には受付が始まっているらしい。僕も受付に並び27の席に座れと指示されたので、明らかにやる気のない負のオーラが纏わりついた死人のような表情を崩すことなく講習部屋に入り27の席に座った。

僕の席の周りに座っている人たちのほとんどは若い学生のように思えた、普通に考えたら平日朝の初回更新者講習なんて学生しか来ないか、と考え周りの奴らになんとなく親近感を感じた。そう思うと少し鬱が軽減されたように思えた。

講習が始まった。講習してくれる先生の話どおりに本をめくったり受付表を見たりしていた。ふと周りの奴らを軽く見まわす、皆が何かしらの違反をしていたことが解ってしまった。親近感は一気に薄れた。

僕の隣に座っている奴は講習のビデオが始まった途端に眠りだした。なんだDQNか…TPOを弁えろよ…と思ったが気づけば後ろの奴も寝ているし斜め前の奴なんかメールを送っているらしい。講師は何も注意しないのかと思いきや講師は部屋の中にいなかった…

どうやら講習室の中の異物は僕であったようだ。

鬱タイムであった講習はそれほどきつくもなくあっけなく終わり、免許の配布に移った。講習の時は死んだ魚のような眼をしていた奴らの瞳がこれでもかと云う位輝いていた。講習は嫌いでも新しい免許は嬉しいらしい。そう言う僕も少しわくわくしていた。早く番号が呼ばれないだろうか?僕の目も周りの奴らと同じく輝いていたことだろう。

免許の配布が始まった。僕の番号は286番。

「182番の方!」

まだ180番台だと思い僕はトイレにでも行こうと配布口とは反対方向に歩きだした

「206番の方!、225番の方!」

番号が一気に飛んだ。僕はその場で軍人もびっくりするほど綺麗なまわれ右をし配布口にダッシュ。
配布口についたと同時に僕の番号が呼ばれ、僕は免許を受け取った。そのまま急ぎ足でで配布部屋から逃げ出した。綺麗なまわれ右を見られたのが恥ずかしかったのだ。

僕は免許を強盗犯のように受取り、家に逃げ帰っていくことになった。こうして僕の免許更新は終わった。